部活用のスポーツシューズ、普段使いのスニーカー、就職活動に向けて購入した革靴。あらゆるシーンを足元から支える、靴。あなたが今履いている靴は、本当にあなたの足に合っているでしょうか?
今回は、お客様に寄り添い「足元から健康をつくる」ことに挑戦する「シューズショップコマツ」の岸田 将志さん、髙間 綾香さんに、靴のこと、子育てと仕事の両立のこと、働く環境のことについて、伺いました。
「靴」を通じて、問いかけたいこと。
「シューズショップコマツ」があるのは、鳥取県倉吉市。可愛らしい靴とぬいぐるみが出迎えてくれた。
「これは赤ちゃんがはじめて履く、いわゆる「ファーストシューズ」です。セットでお届けする隣のぬいぐるみは、生まれたときの赤ちゃんとほぼ同じ背丈なんですよ。お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんが、子どもがぬいぐるみと一緒に遊んでいるのを見て『あっこんなに成長したんだなぁ』って。子どもの成長を喜んでもらいたい、そんな想いではじめました。」
ご紹介いただいたのは、シューズショップコマツの3代目にあたる岸田将志さん。
創業から57年。『買って終わり』ではなく、本当に履き心地の良い靴と出会ってほしい一心で、自分の足を知るための足の計測会を行なったり、歩くことで健康になってもらえるよう、ウォーキング教室やノルディックウォーク教室を開いている。
「日本では、諸外国と比べて『靴を履くこと』の大切さが浸透していないと感じます。そのギャップを埋めるためにも、商品を通じて『靴の大切さ』を問いかけたいと思っています。」
靴に対する情熱を燃やす岸田さん。
長く靴にまつわる事業をされていたかと思いきや、社会人になりたての頃は全く別の仕事をしていたという。
東京進学、インターン、ベンチャー就職、起業、そして。
幼少期を地元倉吉で過ごし、小、中、高とサッカー少年だったという岸田さん。
東京の大学へ進学してからも、日本一を目指す社会人フットサルチームに所属し、大学生活のほとんどをフットサルへ費やした。就職活動を考え始める時期には、インターン生として、厳しい営業の世界へ飛び込んだ。
これだけ行動力に溢れる人が、地元へ戻り家業を継ぐ選択をした理由は何だったのだろうか。
「大学卒業後、とあるベンチャー企業へ就職しました。ある程度経験した後に退職し、ほどなくして知人と起業したんです。今で言う『ライザップ』のような、パーソナルトレーニングをプライベート空間でやる事業でした。ただ、家賃の高い六本木のマンションを借りちゃって。すぐにキャッシュが底をつき、辞めざるを得ない状況になったんです。」
「正直、まだ帰りたくはなかった。でも、このままズルズルやっても先が見えない気がして。一回環境をリセットしようと鳥取に帰ることを決めました。東京発の夜行バスの中で、ずっと一人泣いていました。都落ちというか、逃げたような感覚があったのかもしれません。」
地元へ帰り、家業の経営へ
「鳥取に戻り家業の会社に入った当初は、靴の販売に関わるというよりも「歩くことで健康になる」人を増やすために、ウォーキングやノルディックウォークのインストラクターをしていました。ノルディックウォークに関しては、私が県内ではじめてインストラクターの資格を取りました。支部をつくったり、普及するためのインストラクター講習をしたりしましたね。」
当時、1年間で120人ものインストラクターを養成。全国で一番インストラクターを育てた人として表彰されたこともあるそう(2013−2014年)。人口最小県の快挙に、岸田さんの熱意が伝わってくる。
そしてこのときの活動が、今のビジョンや指針へつながっているという。
「ノルディックウォーキング教室の生徒さんに、体だけではなく心の病気をされていた方がいました。それがある日、ウォーキングに参加してから薬を飲む回数が減って、体調が良い方に変わってきたとおっしゃっていただいたんです。そういった声を聞く中で、ファッションとしてだけではなく、体も心も健康になって笑顔になってもらえるものとして、靴を提供していきたいな、と思うようになったんです。」
子育て当事者だからこそ、お母さんの靴の悩みに寄り添える
冒頭の「ファーストシューズ」のプロジェクトで欠かせない存在がいる、と紹介されたのが1年前に入社した、髙間さん。
どんな仕事を担当されているのだろうか。
<髙間さん>「ファーストシューズの商品開発と、子ども靴の大切さを伝える広報を担当しています。具体的には、保育園や幼稚園に行って足の計測会を開催したり、ブログで情報発信をしたりしています。もちろん、お店で靴の販売をしたりもしますね。」
「幼稚園でも、以前より足のことを考えるところが増えてらっしゃって。今日も境港の幼稚園へ足の計測会に行っていました。ブログではわたし自身の出産から子育ての経験を織り交ぜながら、靴のことや、測定会などのイベントのこと、商品紹介などをリアルタイムで発信しています。」
<岸田さん>「彼女はもともとGAP系列のアパレルストアでマネージャーをしていたんです。ちょうど結婚して倉吉に帰ってくるタイミングで、入社していただきました。実は、入社すると決まって1ヶ月後くらいに「子どもができました」と報告があったんです。はじめは『マジか!』と驚きました笑 」
「でも、以前からファーストシューズの取組をしたいと思っていたところだったので、髙間の子育て経験を織り交ぜることで、事業も成長していくことができるんじゃないかと思ったんです。」
転職に結婚、出産。同じアパレルとはいえ、戸惑いはなかったのだろうか。
<髙間さん>「服はサイズがS、M、Lなので、ある程度体に合いさえすれば、あとは好みで形やデザインを選べますし、着ることで体に異常が出たりしないんです。でも靴は、サイズがミリ単位で違いますし、幅や高さも違う。履くことで靴擦れを起こしたり、足の形が変形してしまうことだってあります。」
「『この靴が履きたい』と言われても、お客様の足の形を考えると『別の靴のほうがいいんじゃないですか?』とご提案すべきときがあって、そのバランスが難しいですね。」
幼少期は3ヶ月で買い直すこともあるほど、子どもの足の成長は早い。
『お金がかかるから大きな靴を買って長く履かせたい、、』という親御さんの希望がある一方、大きすぎると靴擦れを起こしたり、足の不調が体の不調を招いたり、、自らもお子さんを育てる髙間さんは、親御さんが抱える葛藤や悩みに、今まで以上に寄り添えるようになったという。
<髙間さん>「やっぱり自分も同じ状況を経験しているので、お金と履き心地の葛藤を理解できます。『こういう風な感じで悩んでるんです』とか『靴をどうすればいいですか』という声に共感できることが多くなりましたね。」
「どんな方でも自分が言ったことを否定されるのは辛いじゃないですか。最後に決めるのはお客様ですので、お客様の思いをしっかり受け止めた上で『でも足のことを考えると、この方がいいですよ』と、自分たちが考えていることをご提案するように心がけています。」
会社と個人の信頼関係が、働き心地の良い環境をつくる。
育児と仕事の両立に奮闘されている髙間さん。意識されていることはあるのだろうか。
<髙間さん>「それこそ、結婚する前や出産前ってほんと仕事人間だったんです。終電まで働くし、残業もやっちゃうタイプで。でも、子どもを生み育てながら仕事をしていると、体力的には全く問題はないですけど、精神的な部分の葛藤は常にあって。」
「やっぱり販売業だと、土日休みっていう意識が正直ないんです。でも、土日のどっちかでも子どもと一緒にいてあげたいという気持ちになりますし、一方で、販売の仕事も会社も好きなので、自分は働きたいけど、家にいないといけない、、という葛藤は常にありますね。」
<岸田さん>「僕も東京にいた頃は『終電始発当たり前、会社に寝る』みたいな感じで仕事をしてました。でも『鳥取で仕事をする、働く』意味や意義もあると思っているんです。『仕事のやりがいと同時に家族の時間を大事にしたい』とか『子育ての時間をしっかり取れるようにしたい』とか、そういう自分らしい働き方も満たされることが、ここで会社をする意義なんです。」
<髙間さん>「今は本当に会社にも配慮してもらって、土日のどっちか休みとか、両方休みの日もつくってもらっています。周りの人の助けや考えがあってこそ、仕事と子育ての両立が出来ているんです。そういう融通を利かせてもらえるから『じゃあ自分も何か頑張りたい、会社のためになりたい』と感じられるんです。」
<岸田さん>「仕事でもやりがいを持ちながら頑張って、休むときはしっかり休んで育児やプライベートも充実して。そんな両立が実現できるような会社にしたいなと思っています。今回のファーストシューズのプロジェクトを、そのためのひとつのロールモデルにしたいなと思っています。」
「靴そのものだけでなく、靴を通して健康を届ける」
「それぞれの自分らしい『働き方』『生き方』を実現する」
お客さまや、共に働く方に対する想いを明確にし、それを実現していく。
その姿勢から、仕事のあるべき姿を見たように感じました。